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November 03, 2013

書評 図解プレートテクトニクス入門

図解プレートテクトニクス入門 ブルーバックス 講談社 2013年


 プレートテクトニクスについて読み下して分かるという普及書には,深尾良夫氏の「地震・プレート・陸と海」があるが,1985年の出版なので,その後の進歩を入れたものが少ないのは確かだった.ブルーバックスから出た本書は,最近の進歩を含むものとして期待したのだか,残念ながらやや難がある.
 著者の一人である大木勇人氏は,物理系の人なので,地球科学を扱う際に物理系の人がよくやる過度の簡略化をしている.また,歴史的な事実などの扱いについては,一次文献にあたることなく,伝聞や他の書籍からのまた引きで書いているようで,正確ではない表現が見られる.
 また,「図解」といいつつ,断面図が多く,見慣れていない人には読み解くのは難しいと思われる.
改訂時に改善されることを期待して,以下,気になった点を挙げておく.

・p4 たいていの人は最初,「プレートの下はドロドロのマグマ」という誤解をしています.
→どのような調査データに基づいているのか不明? 著者の体験か,感覚的なものなら,こう言い切るのはどうか? 「外核は液体」というと,マグマのソースは外核と思う人がいるのは確かだが,地球の中が石でできていて硬いというほうが一般的ではないか.

・p5 1990年代から日本を中心とした研究で,地震波をもとにした地球内部の状態を表す画像の作成に成功し,
→多分,深尾良夫氏の一連の研究をさしているものと思われる.しかし,全球トモグラフィーは,本当に「日本を中心とした研究」か? 

・p15 《陸橋》というのは,なかなか奇妙な概念です.
→パナマ地峡によって南北アメリカ大陸がつながっていることは常識.ベーリング海峡が氷河期には海水準の変動によって陸橋となり,それを通じてアジア大陸とアメリカ大陸とで動物の行き来があった.だから,大陸が細長い陸地によってつながるという陸橋は,実例があって奇妙な概念ではない.

p19 寺田寅彦が1920年代に大陸移動説を紹介した記録がある.
→大陸移動説について日本に紹介したのは,山崎直方や藤原咲平の方が早い(谷本,1991)

p23 大陸は《シアル》という軽い岩石でできているため,それより重く流動性のある《シマ》の表面よりも浮かび上がっており,そのため大陸と海洋底に段差ができる―と説明してみせました.
→シアル,シマは,本当にヴェーゲナーが初めて使ったのか? 

p26~p27 アイソスタシーは,アルキメデスの原理を使ったシンプルな原理として受け入れやすいと思います.
→アイソスタシーはアルキメデスの原理で浮力を計算するのではなく,静水圧平衡で求めたほうが分かりやすい.圧力については,中学1年の理科で扱うので,中学生2年生以上であれば既習.

p35 1957年大陸移動を示唆する磁極移動経路のずれの発見(ブラケットとランコーン)
→Blackett (Blackett et al., 1960)の方は伏角変化なので,移動曲線ではない.

p49 1968年から始まったアメリカの深海底掘削計画では,海底をつくる岩石の放射性年代測定が行われました.海洋底の岩石の年齢は,海嶺ではまだできたばかりで新しく,海嶺から遠ざかるにつれて古くなっています.
→斉藤常正氏の一連の成果も入れて欲しい.岩盤直上の堆積物の微化石年代と放射年代を合わせて,海洋底の年代が分かった.

p57 一方で日本には,地震学の方面から,プレートの存在を暗示していた独自の研究がありました.
→和達-ベニオフ面だけでなく,杉村(1958)のスラブ概念も入れて欲しい.

p60 一つ一つの鉱物は,ほぼ一様な物質であり,
→組成変化するので「一様な物質」とはいえない

p66硬いはずの鉱物が塑性変形するしくみについては,1980年代に日本の研究者によって研究され,解明されました.
→唐戸俊一郎氏の一連の研究をさしているものと思われる.しかし,鉱物の塑性変形のしくみは長い研究の歴史がある.

p73 また,sphereとは,ピンポン球の殻のような球殻のことです.
→ピンポン球の殻? 球殻というのは一般的な言葉ではないので,図が欲しい.

p77 海洋地殻の上層は,主にこの枕状溶岩と呼ばれる形態の玄武岩で覆われるようになります.
→海洋地殻上層は,主に枕状溶岩か? 

p78 本書では簡単にするため,これも含めて海洋地殻は玄武岩と記述することにします.
→玄武岩質,という用語の方がよいのではないか? 「玄武岩質」は,マグマの性質としては使っている.

p79 このような物質をより分ける「分化作用」は,地球のさまざまなところに見られます.
→熱水鉱床を作る作用を「分化作用」とは言わない.

p82 また,水とはいったも冷たい水ではなく,地下の超高圧のため,数百℃から1000℃の高温になっても沸騰せずにいる熱水です.
→超高圧で数百℃なら超臨界状態になっているので液体ではない.他のところは説明がていねいなので,この部分も高温高圧の水は液体ではないことをきちんと説明してほしい.

p88 地震波が遅くなるのは,この深さでマントルがとくにやわらかくなっていることを示し,
→地震波が遅くなると,なぜやわらかいことが分かるのか,という説明はここまでなかった.

p89 玄武岩質マグマを出した溶け残りマントル(ハルツバージャイト)
→ハルツバージャイトが何か特殊な岩石のように見える.ハルツバージャイトもかんらん岩の一種であることを示した方がよい.

p111 相転移した玄武岩は,エクロジャイトとよばれます.
→玄武岩=エクロジャイトのように見える.鉱物組み合わせから見ても,全く別の岩石.なぜ密度が大きくなるのか説明が欲しい.

p111-112 上部マントルのかんらん岩をつくる主な鉱物であるオリビンは,深さ約410kmより深いところでは相転移して「スピネル構造」と呼ばれる
→相転移という概念は難しい.図解がうりものの本なのだから,オリビンとスピネルの構造の違いを図示してほしい.同様にp113のペロブスカイト構造も見せたい.

p116 この命名は,日本に関心があったアメリカの学者によるものです.
→p43でハリー・ヘスを紹介しているので,これはヘスのものであると書いてもよいのではないか.

p118 ホットスポットの根もとは,プレートやマントルの動きに流されない,独立した位置にあると想像されます.
→とすると,マントル内部に根もとがあるかも知れないとする説をこの前に紹介するのは変.この記述の通りならD’’層か,外核表面に根もとがあるはず.

p132 この線を火山フロント(火山前線)と呼びます.
→これまで日本人の貢献を示してきているので,火山前線が杉村新氏(杉村,1959)の命名であることを書いて欲しい.

p133 もっとも結晶分化作用が進んだ後のマグマは,かこう岩質マグマ(あるいは流紋岩質マグマ)とよばれ
→この書き方では,かこう岩は玄武岩質マグマの結晶分化作用だけでできるように見えてしまう.実際にはこのしくみでできるのは,ごくわずか.

p134両者の中間のマグマもありますが,本書では玄武岩質とかこう岩質だけにしておきましょう.
→これは乱暴.沈み込み帯を扱っているのだから,安山岩質マグマの方がむしろ重要.

p136圧力,および面をずらす力のはたらきを合わせた力の作用を,応力と言います.
→応力には,いくつかの定義のしかたがあるが,構造地質学的には「 物体を変形する,または変形するように働く力」というのがよい.褶曲を作るのも応力だから,「面をずらす力をいう」という記述は間違い.

p136 日本のようなプレートの収束帯は,プレート同士が押し合う場所であるため,逆断層が多いからです.
→日本では,逆断層の方が多いか? これはどのようなデータに基づいているのか?

p143 図6-11飛騨帯は4億年より前の大陸地殻
→飛騨帯は,古い大陸地殻ではない.

p168 海洋よりも厚い地殻,しかも玄武岩ではなくかこう岩の地殻をもつことです.
→大陸地殻は「かこう岩質」

p183 数字が1大きくなると,エネルギーは約32倍になるという関係があり,
→Mが2違うと1000倍違う,という関係の方が正確.

p195 図8-8
→杉村(1958)のスラブの図が欲しい.

p193 「波」とはいっても,通常海岸に打ち寄せる波とは性質が大きく異なります.
→津波の図だけではなく,普通の海の波の図と対照させると違いが分かりやすい.

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